テックワンは「技術力世界一」を合言葉に、透湿防水衣料素材を主力に躍進している繊維加工企業である。合繊織物のプリント・無地染めから透湿防水フィルムのラミネートまで一貫生産体制を構築した強みを発揮しながら、より高機能のフィルム開発に取り組むとともに、リチウムイオン電池用部材やメディカル事業など新分野にも果敢に挑戦し、「小さな大企業」を目指している。

「技術勝負」の覚悟示す新社名


テックワンが創立以来の平松産業から社名変更したのは2013年。新社名は「テクノロジー・ナンバーワン」「テクノロジー・オンリーワン」に由来しており、「技術力世界一」を合言葉に、「技術を武器に世界と勝負する」覚悟を明確に示した。

1970年代、旧平松産業はプリント傘生地で人気を博した。一時は日本のプリントにおける洋傘生地の実に90%のシェアを占めるガリバー企業だったが、海外の安価な大量生産品の攻勢を受け、やがて需要は激減した。

この苦境を救ったのが、2001年に立ち上げた透湿防水フィルムとラミネート加工事業だった。プリント生地や無地染め生地に「雨や水を防ぎつつ湿気は逃す」という新たな機能を付加することで、スポーツ・アウトドアウエアや防寒衣料の業界で高い評価を獲得し、業績が大きく伸びた。今や透湿防水素材は売上高の約70%を占める大黒柱に成長している。この成功体験が社名変更の決断を後押ししたと言える。

「差別化できない商品では価格競争に巻き込まれ、生産コストの安い海外勢に駆逐されてしまいます。オンリーワンの技術こそが、世界を相手に勝負できる唯一の道だと確信しています」(北市幸男社長)

その言葉どおり、テキスタイル分野において、より高度な透湿防水加工技術やプリント・染色加工技術を着々と磨いてきた。

しかし、テックワンはそれだけでは不十分だと考えている。その理由を北市社長は「現代は変化のスピードが極めて速いため、既存の得意分野に安住して新しい事業分野を開拓しなかったら、5年後には仕事が半減しかねません」と解説する。繊維分野の深掘りと同時並行で、第二、第三の柱を確立すべく、新たな研究開発・商品展開に挑んでいるのはそのためだ。

リチウム電池用部材に期待


新事業として最も期待しているのが、電気自動車や携帯電話に使われているリチウムイオン電池用の添加剤「シリコン系負極材」だ。電気自動車なら充電時間の短縮や走行距離の延伸を実現するだけでなく、コストダウンも図れるという。すでに商品開発は完了、量産体制も整えており、目下、自動車メーカーや電池メーカーにサンプル提供している。

この事業を牽引する北野高広取締役事業統括部長兼辰口研究センター長は「アプローチ先の関心は高く、手応えは十分です。数兆円の規模を有する夢のある市場であり、遅くとも5年以内に30億円以上の需要を獲得したい」と意気込む。

このほかにも、産業資材などにも対応できる特殊スペックフィルムの開発、自動車のライトや携帯電話の通話口に使われる「ベントフィルター」、柔軟で軽量、強靭な炭素繊維織物「ソフトコンポジット」など、独自技術を生かした種まきに取り組んでいる。

さらに、透湿防水機能を備えた褥瘡(床ずれ)予防マットや車いす用クッションなどの介護用品販売に参入しているほか、かつて主力商品だった傘生地分野の復活に向け、洗濯や着せ替えが可能な傘の販売に着手するなど、一般消費者を対象とするビジネスにも乗り出している。

向上心強く、助け合う社風


こうしたチャレンジングな企業風土はいかにして培われたのだろうか。社歴45年以上に及ぶ北市社長の説明は明快だ。

「『無理だろう』と決めつけず、まずは任せて経験させる伝統が築かれています。しかも、まじめで、向上心が強く、面倒見の良い先輩が多いのでスキルアップが早く、やりがいも得られます。同族企業ではないことも士気が高い理由の一つ。私もそうですが、正社員から経営トップになれる可能性があり、若手社員には『野心を持て』と発破をかけています」

向上心の強さを示す具体例として、管理職を含めて資格取得を目指して勉強に励む社員が多いことが挙げられる。北市社長自身も一念発起して50代半ばで日本衣料管理協会認定の「繊維製品品質管理士(TES)」資格を取った。国家資格である「技術士(繊維)」に合格したのは還暦目前の専務時代だった。社内のTES取得者は20人に及ぶという。

「仕事と並行して勉強するのは大変でしたが、試験に合格した時は大きな達成感がありましたし、自信にもなりました」(北市社長)

チームワークの良さも自慢だ。野村博人取締役工場長は「個人的な好き嫌いはあったとしても、仕事となれば互いに助け合える結束力が当社の強み」と証言する。実はプリント・染色加工の現場は繊維業界の中でもアナログ的要素が多く、技術力だけでなく、感性や発想力、創造力が求められる。それだけに、コミュニケーションやチームワークはもとより、快適に働ける職場環境が重要だ。

「これがルーズだと利益を出せないくらいの覚悟で、工場内の※5Sを徹底しています。質の良い仕事をするための基本中の基本ですね」(野村取締役工場長)

社員教育をより充実させるため、2022年度から外部機関による階層別研修も開始した。今後も教育への投資は惜しまない方針で、北市社長は「理想は社員が『わが子も入社させたい』と思える会社です。その基軸となるのは人づくり」と熱く語る。

「素顔の会社を見てほしい」


2020年から始まったコロナ禍の影響で、テックワンも大きなダメージを受けた。衣料品業界からの受注が止まり、2019年10月期に約34億5000万円に達していた売上高は70%程度に落ち込んだ。

それでも黒字を維持しながらなんとか耐え抜き、2021年度からスポーツ・アウトドアウエアの復調を追い風に反転攻勢を開始、2022年10月期にはピーク時の9割方まで売上高をV字回復させた。

今はまさにこの上向き基調をより確かなものとし、業績やステイタスを一段高いステージに押し上げるチャンスだと言える。ただし、少子化の流れからマンパワーがやや手薄なのがネックだ。

「目下の最重要課題は、産業界の人手不足の中で、質量ともに人材をいかに確保するかです。インターンシップ制度も充実しているので、学歴や新卒・中途を問わず、まずは素顔の会社をできるだけ多くの人に見ていただきたいと願っています」(北市社長)

「技術に懸ける、世界を駆ける、小さな大企業」をスローガンに、幅広いフィールドでブレークスルーに挑むテックワンは、未来を託すにふさわしいポテンシャルにあふれた企業ではないだろうか。

※5S:製造現場などでの職場環境改善活動。5つのSは「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」を指す。


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