前田製菓(能美市)は、タルトやクッキー、オムレット、おもちなど、観光のお土産品を中心に、多種多様な菓子の製造・販売を手掛けている。1973年の会社設立から50年。菓子どころ石川を象徴するメーカーの一つであり、新型コロナという荒波を乗り越え、明るい兆しが見え始めた今、“人”を大切にした事業展開で次代に向けた動きを本格化させている。

地元ゆかりのヒット商品も


旅の思い出をおすそ分けしたり、日ごろの感謝を伝えたり、故郷の魅力をPRしたり、お近づきのしるしに渡したり…。「人から人に贈るお菓子を通して、〝想い〟を伝えるお手伝いをしたいと考えています」。こう話すのは、2023年1月、父から経営トップの座を引き継いだ前田製菓の前多美保社長だ。同社が手掛けるのは、おいしさはもちろん、地域の特色まで盛り込んだ観光土産用のお菓子で、実に多種多様な商品ラインアップを誇る。顧客のブランド名で受託製造するOEMを中心に、取引先は国内だけでなく、海外にまで広がっている。

県内有数の菓子メーカーとして躍進を続ける前田製菓。その歴史の時計の針を巻き戻すと、第二次世界大戦前にまでさかのぼる。始まりは、前多社長の祖父が1939年、旧根上町福岡町(現能美市福岡町)に構えた前多千秋堂である。当初は地元客向けの菓子や学校給食用のパンの製造を担っていた。73年の会社設立を前に観光土産用菓子製造業に舵を切り、86年には福岡町から現在地に本社工場を移転した。

事業規模が大きく拡大したのは平成に入ってからだ。2001年に軽海工場(小松市)、05年に本社新工場、12年に白山工場(白山市)を次々と立ち上げた。さらに、05年には神戸市にクローバー神戸を設立し、関西にも製造・販売拠点を確立。金沢を舞台とした大河ドラマ『利家とまつ』にちなんだお菓子や、郷土のスーパースターである元メジャーリーガー・松井秀喜さんをモチーフにした松井サブレといったヒット商品も飛び出した。

「私が入社した1991年は30人くらいでした」。こう前多社長が振り返る従業員数は、平成から令和になった今、200人以上にまで膨らんでいる。

従業員の8割が女性


前田製菓の成長に大きな役割を果たしてきたのが女性たちだ。パート・社員を含めた従業員の約8割を女性が占めており、「お菓子作りが好きな社員が多く、〝人〟は当社にとって一番の財産です」。前多社長はこう話し、結婚や出産などでライフスタイルが変わっても、働きやすい職場づくりに知恵を絞っている。

例えば、多様な勤務体系の整備がその一つだ。従来は子どもが3歳になるまでだった短時間勤務を、小学校入学前まで選択できるよう期間を延長した。育児休暇制度も整備し、健康診断受診率100%を維持するなど、社員の健康にも気を配っている。

前多社長が総務部門に携わるようになった8年前からは、社員間のコミュニケーションの促進にも力を注ぐ。「事業規模の拡大も影響しているかもしれません。みんな忙しく、自分の持ち場で精一杯。同じ会社でも工場や部門が違うと、意思疎通する場がなく、横のつながりがうまくいっていないと感じていました」(前多社長)という。

そこで、各工場・部門から人を集め、スキルアップ研修を実施。直接、顔を合わせ、会社の問題点やキャリアアップなど、さまざまなテーマでディスカッションを重ねる中で、見えない壁を取り払おうとした。さらに、若手の登用にも積極的に取り組み、社歴や年齢にとらわれることなく、意欲ある社員にマネジメントを任せていったという。

コロナ禍で新たな気づき


取り組みの効果が、図らずも発揮されたのが、業界全体が荒波に飲み込まれた新型コロナウイルスの感染拡大だった。2020年に始まったコロナ禍で観光需要はほぼゼロになるまで落ち込み、長年にわたって低空飛行が続いた。前田製菓でも製造部門が出社したのは月に1日だけという時期もあったそうだ。

にもかかわらず、この3年間で会社を退職したのは、高齢を理由としたパートや期間雇用の派遣社員など、わずかにとどまった。「かつてないほどの苦境でしたが、多くの社員が残ってくれたことが本当に心強かったです。風通しのいい職場づくりに努めてきた成果もあったのだと思います」と、前多社長は教えてくれた。

また、コロナ禍を経て、創業時から拠点を置くふるさと加賀への思いも一層強まった。旅行を控える機運が高まる中、少しでも旅気分を味わってほしいと、前田製菓では、取引先の了承が得られた商品を詰め合わせた「旅袋」を2500セット用意。本社工場で販売したところ、地元客がひっきりなしに訪れたという。「ありがたいことに、旅袋はあっという間に完売し、売り上げの一部は医療従事者の皆さまへ寄付させていただきました。地元の方々に当社を知っていただくいい機会になりましたし、何よりも前田製菓が地域に支えられてきたことを改めて実感できました」。前多社長はこう振り返り、コロナ禍の荒波に翻ほん弄ろうされながらも、大きな手応えをつかんだようだ。

〝地〟を生かす新事業に意欲


このような経験を糧に、前田製菓では今、新たな領域へと踏み出そうとしている。それは一般の方を対象とした事業モデルだ。「当社は企業がお客様のBto Bがほとんどでしたが、旅袋の販売を通して地元の皆さまに喜んでいただいたことで、Bto Cをにらんだ挑戦も始めたいという意欲が高まっています」と前多社長。厳選した地域の食材を使い、品質を追い求めた商品開発を進めていきたいとのビジョンを描いている。さらに、新事業に情熱を燃やす若手社員も増えており、前田製菓の未来を担う芽も順調に育っている。

「生活のためにお金を稼ぐ場ではなく、従業員一人ひとりが人生の幸せにつながる+αを見つけられる会社にしていきたいと思っています。そのためにも、これからも〝人〟を財産に、積極的な挑戦を続けていきます」と、意欲を語る前多社長。加賀の地から新しい菓子文化を創造していくために、より強くアクセルを踏み込んでいく。


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